完全に猫なのさ

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「半沢直樹」原作・『銀翼のイカロス』とドラマの違い

日曜の夜ですね。半沢ロスのみなさまいかがお過ごしでしょうか。

寂しさを紛らわせつつ、今日は「半沢直樹」後半の原作となった『銀翼のイカロス』(池井戸潤ダイヤモンド社)をもとに、半沢を取り巻く「登場人物」について、ドラマとの違いを振り返ってみたいと思います!

後半では原作のとまりんの魅力について書きます(IQ下がるよ宣言)

 

前半の『ロスジェネの逆襲』についてはこちら!↓

purplekuina246.hatenablog.com

 

※物語の内容に触れています。

※文庫で読んでいたのですが忘れていたのでKindleで再読しています(引用元はすべてKindle版です)

※俺たちバブル入行組とかもだいぶ前に読んでいるのですが忘れています。本記事では『銀翼のイカロス』にだけ触れています。

※登場人物は主なキャラクターについてピックアップしています。

 

①ドラマと原作両方に出てくる人

谷川幸代(開発投資銀行企業金融部第四部次長/演・西田尚美

ドラマでつけられていた「鉄の女」というあだ名は、原作ではサッチャーでした。

サッチャーですからね」
冗談めかして田島がいった。
サッチャー? なんだそれ」
「谷川さんのあだ名ですよ。そう呼ばれてるんです。ああ見えて結構、タフ・ネゴシエーターなんですよ、彼女」

マーガレット・サッチャーの二つ名「鉄の女」を、ドラマでは直接拝借していたのですね。実在の人物への言及を避けたのもあると思うけど、サッチャーの在任時代(1979-1990)が遠ざかり2020年では少しわかりにくくなっているのもあるかも。原作では、債権放棄拒絶が実現したシーンで、こんなふうに言及されます。

「だろうな。だが彼女は最後まで諦めずやり遂げた」
半沢はいった。「さすが、サッチャー。“鉄の女”だ」

ちなみにこの直前、谷川はギリギリのタイミングで債権放棄見送りの連絡をよこしますが、ドラマでは「貸さぬも親切。」という超ハイコンテクストな文言だったのに対し、原作では「民営化案通過。債権放棄見送ります」と、簡潔明瞭な内容でした。ドラマではその前の半沢とのやり取りをリフレインする意味がありましたが、やっぱりビジネスの大事な連絡はこうでないとね…笑。

 

白井亜希子(国土交通大臣/演・江口のりこ

まず、ドラマでは人を威嚇するような白スーツが印象的でしたが、原作の白井は「青スーツ」がトレードマークになっていました。とにかく青しか着てない。登場シーンはこんな感じ↓

だがそれもつかの間、激しいフラッシュが焚かれる中、真っ青なスーツに身を包んだひとりの女性が準備された会見場に足早に歩いて行く。
ロングヘアをアップにした髪、年齢は三十代半ばだが自信にあふれ(中略)何年か前まで民放の人気女子アナだった頃の雰囲気そのままだ。

髪型にしか言及がありませんが、どことなくケバそう。セリフは語尾「〜ですわ」連発で、キャンキャンして小うるさい感じです。

「ひどい話ですわね、それは」
白井は眉をひそめると、毅然としていった。「乃原先生に対する発言は、そのまま私に対する挑戦と受け止めさせていただきます」

元女子アナという経歴は、原作では高飛車なキャラ付けに使われましたが、ドラマではジャーナリスト寄りのニュアンスにもなり、箕部の不正を暴くラスト(=原作にはない)につながりました。

また、ドラマではクリーンであるとされていた白井ですが、原作は違ったんですよね。大臣辞任を勧告されるシーンでは、的場総理にこんなことを言われていました。

「小耳に挟んだ話だが、箕部さんの政治資金の一部が、君にも流れているという噂があるそうだな」

人物造形が少し変わったからこそ、江口のりこさんのキャスティングが生きているなぁと思った次第です。

 

乃原正太(タスクフォースリーダー/演・筒井道隆

嫌〜なやつなのは一緒ですが、造形が全く異なり、肥満&チェーンスモーカーという設定でした。登場シーンがこんな感じ。

リーダーは、大手企業の再建実績が豊富な有名弁護士の乃原正太。樽のような肥満体に黒縁の丸めがね。その億の小さな目から放たれる視線は、針のように鋭い。

原作では所構わずタバコを吸いまくり(時代もあると思うけど)、全体的に下卑た印象でした。半沢を指しての「ゴロつきですよ、あんなのは」というセリフは、いやそれおまいう。ドラマでは普通体型にフチ無しメガネでしたので、かなり印象が異なります。インテリヤクザみが増幅して、効果的だったのではないでしょうか!

あと原作では幼少期の恨みがさらに深い感じ(原作では紀本と先輩後輩ではなく同級生)。

それにしても父の代からの色々を背負ってるキャラ、多いなー(半沢、黒崎、谷川、乃原)。この辺はドラマで全部描かれるわけではないけれど、どこか時代劇っぽさには関係あるような気がするんですよね。

 

黒崎駿一(金融庁検査官/演・片岡愛之助

えーと同じとこもあるけど全然違いました(でしょうね)。オネエ言葉ではあるものの、「底意地の悪さと冷酷さ」という記述の通り、全体的に厳しく冷たい印象でした。もちろん、童謡も歌わなければ急所も掴まなければ直樹とも呼びません。

金融庁検査(原作ではヒアリング)での、半沢との対面シーンはこんな感じ。ちょっと長いけど引用します。

「帝国航空の担当、誰なの?」
挨拶はない。単刀直入というより、ぶっきらぼうに切り出した黒崎の言葉は、常に何かに苛立っているかのようにささくれている。しかもそれは、聞くに堪えないオネエ言葉で、いまや黒崎の代名詞といってもいいほどだ。
「私です」
という声に急に粘っこい視線を向けた。獲物を見つけた爬虫類を思わせる目である。
「あら、あなただったの」
黒崎は唇の端に昏い笑いを浮かべながら、ギラリと底光りする目を半沢に向けてきた。

対して、ドラマではこうでした。

「(ダルそうに)ただいまより、金融庁検査を…あなた…いたの…!!(目を潤ませながら)」
「ええ(死んだ声で)」
「さては電脳の粉飾を見破ったおかげで、こっちに返り咲いたってわけね!アタシと一緒♡(ウインク)
「そうでしたか。てっきり今日は落合検査官だとばかり」
「(食い気味に)そぉ〜うなのよ!(中略)あなたが担当者だなんてねぇ〜♡おかげでファイト、まん・まん・よっ♡

 いや全然違うな。濃度100000000倍くらいいってるな。

 

原作では、この金融庁ヒアリングで「舞橋ステート(ドラマでは伊勢志摩ステート)に対する調査不足を指摘することで、それとなくアシストしていたということが最後に明かされますが、ドラマではもうね、ご存知の通りね、ガチ助太刀してましたからね。ドラマの黒崎、一から十までありえなすぎて面白かったねぇ…。

 

②原作に出てきて、ドラマに出てこない人

内藤部長

前作では吉田鋼太郎さんが演じた内藤部長。キャスティングの事情なのか今作には登場しませんでしたが、原作では、懐の深い、理知的なバンカーとしての描写が印象的でした。

同じフロアにある内藤の執務室は、そこだけが重厚な静けさに満ちた森のようである。その雰囲気を醸し出しているのは、深い絨毯と、棚に並んだ書籍の数々で、(中略)洗練されたバンカーである内藤という男の奥行きと幅、そのものだ。

は〜渋いわ〜かっこいいわ〜。

味方であり直属の上長である内藤部長の不在は、結果的に、半沢の孤軍奮闘感を強調する効果があったのではと思います。

 

近藤直弼

前作では滝藤賢一さんが強い印象を残しましたが、同様に登場せず。とまりんの説明のとおり「シンガポールに長期出張中」という設定でしたが、原作では広報部次長で、箕部の噂を記者にリークするなど、影で半沢をサポートしてくれていました。

近藤がニヤリと笑ったのを見て、話を聴いていた渡真利が目を丸くした。
「ま、まさかお前が?」
「出入りの親しい記者に耳打ちしといた。噂にすぎないけどって」
「やるな。さすが敏腕広報次長だ」

 

③ドラマに出てきて、原作に出てこない人

重要キャラのこの4人が出てきません*1!花ちゃんは白井の心を動かすことで盆栽破壊倍返しのきっかけを作り、智美さんは旧T不正融資の秘密に近いキーパーソンとして重要な役割を担いました。福山はかなりおかしい感じになってましたが、終盤のチーム感の演出には欠かせない存在でしたね。

そして一番は大和田!!大和田が暗躍したり半沢と手を組んだりすることで、最後までドラマの結末は読めませんでした。ちなみに原作で大和田についての言及はあるのですが、「旧T出身の大和田暁」とあり、出身銀行が旧Sではなかったのもポイントです。

 

④原作のとまりんのココが好き

は〜いここからはとまりんのことしか書きませんよ〜〜〜

可愛いところを引用していきます!

 

コーヒーとまりん

社内でコーヒーを買って飲んでいるでシーンはドラマにも出てきましたが、原作は2場面登場します。

「一難去って、また一難。ご愁傷様!」
所用で営業第二部まできたついでに立ち寄ったという渡真利と、フロアの一隅にある休憩スペースに向かった。自販機で紙コップのコーヒーを買った渡真利は、一口飲むとその甘さに顔をしかめ、「飲むか」、と差し出したが、半沢は首を横にふって自分は砂糖・ミルク無しを選ぶ。

は〜〜〜仲良し!!!そして可愛い!!!

カットされてしまったコーヒーカップ2個持ち(天使)などは、こんなやり取りの雰囲気があってこそかもしれません。

自販機コーナーへ行き、百円コーヒーをふたつ買った半沢は、ひとつを渡真利に渡し、空いているスツールにとまった。

ここでは半沢がおごってくれていますね。百円だけど!

 

飲みとまりん

ドラマでも、とにかく半沢と飲んでいるシーンが多かったとまりん。でもその根拠は、きちんと原作の序盤、渡真利の初登場シーンに見つけることができるのです。

大学の同窓同期でもある渡真利とは、親友であると同時に、なにかと理由をつけては飲食をともにする、“飲み友達”だ。東京中央銀行の半分は顔見知りだと豪語する渡真利の肩書きは融資部企画グループ次長。行内きっての情報通である。

親友…!親友!!!文字にするとなんと美しいことか!そうなんですつまり仲良しだから!ご飯を一緒に食べるのだ!!そのままドラマでも「なにかと理由をつけては飲食をともに」していたってことなんですよね。

近藤が一緒のこともありますが*2、サシ飲みでは例えばこんな感じ。

銀座のコリドー街にある寿司屋のカウンターだ。焼酎は、常連の半沢のために、わざわざ店主が仕入れている栗焼酎で、飲み方はロック。

このコリドー街のお寿司屋さん、前作の『ロスジェネの逆襲』では、渡真利の行きつけとして登場しました。いっしょに足繁く通ううちに、半沢も常連認定されているんですね…。ていうかこの続きも尊いから見て!!!

「茶化すな。これでも真剣なんだぞ」
じろりと睨んだ半沢の肩を、「わかってますよ」、と渡真利は叩いた。
「やっぱりさ、この仕事を任せられるのはお前だけだな。オレが頭取でもお前に頼んだだろうよ――まあ呑もうや」
半沢のグラスが空いているのを見て、渡真利がおかわりを頼んだ。

はああああっっ。。。

茶化した後に実力を認めているという本音を伝えて、おかわりをさりげなく頼んでくれています。♪おかわ〜りはどうする〜?同じものでいい〜の〜?いや彼女?彼女なのか??

 

こちらは、白井大臣の“カチ込み”にあった日のシーン。

ふたりで出かけたのは、神田にあるベルギービール専門店であった。ちょうど二席空いていたカウンターに並んでかけ、モアネットの大瓶をシェアしている。

あーもうねビールをシェアしているだけで嬉しい。ちなみにこの直前、渡真利は内線で「何時に上がれる?ちょっと寄って行こうや」と誘っていて、前のシーンと同じく「〜しようや」という砕けた口調が、及川光博さんが演じたドラマ版のとまりんにはない特徴になっています。まあねドラマのとまりんは「チャオ〜☆」とか言ったからね。

 

ちなみに、金融庁ヒアリング(ドラマでは金融庁検査)のシーンでは、“背後の壁際に並べた椅子には、渡真利を含む関係部門の次長クラスが緊張した面持ちで控えているのだが”という記述があります。とまりんも見守ってた!!

しかしドラマでは、金融庁検査に向かう半沢を、例のアドリブ「ファイト〜!」でお見送りしているので、どちらも最高という話でした。

 

最後にもう1つ、開発投資銀行からの知らせを待つシーンについて。原作では、前述の谷川からのメールより先に、先にとまりん「速報。田所大臣閣議欠席」という一報を入れています。ドラマでは「どうなる!?どうなる!?」というドキドキを高めるために省略されたのだと思いますが、霞が関の知り合いに連絡して閣議の情報を仕入れていた”ってとまりん、顔が広すぎない??

 

ということで、原作の渡真利忍も大活躍していて、チャーミングなので、あとはぜひ!読んでみていただければと思います!!

 

あの…池井戸先生…とまりんが主役のスピンオフも…読みたいです…!(小声で強欲)

 

 

*1:あと永田も出てこない

*2:ちなみに苅田はロスジェネには出てくるけどイカロスには出てこないのです