山並み、荒波、乗り越え(ステージへ)ゆこう!!!
「ジェーン・エア」、オンステージシートでの観劇が叶いました。その「体験」に比重を置いた感想です。3/16夜と同じ組み合わせで、萌音ジェーン、屋比久ヘレン、結夢ヤングジェーン/アデールです。
初見の感想(3/16夜・立見)はこちら。
※ミュージカル初心者の感想です。普段はミッチーさんのベイベーをやっております。
※原作未読/各種劇評未読/個人の主観です!
開演前
オンステージシートの観客は、20分前までにチケットと引き換え、15分前までに下手(1〜40)、上手(41〜80)に分かれてロビーで集合します。特典のチャコールグレーのマスクを装着して待機*1。
ドレスコードは「黒っぽい服」ですが、みなさんほぼ黒でした。私も全身真っ黒でキメてみました。*2
ひとかたまりの黒い集団となった我々*3。ほんの少しだけ「おぉ…」という眼差しが向けられるなか、係員の方に先導されて、舞台袖までの廊下をゾロゾロ進みます。
「関係者以外の方はご遠慮ください」―いよいよ舞台裏手へと通じるドアの奥へ。
わぁ、木の匂いがする。セットが木材でできているからか!この匂いは、きっとキャストのみなさんにとって日常なんだろうなぁ…。
…と感動すると同時に、「この場所、知ってる」となりました。ピアノやら吹奏楽やらの発表会・コンクール・演奏会で死ぬほど経験した下手袖。出番前の緊張がフラッシュバック。これも含めて特別な体験ですね…
誘導灯が照らす黒い階段を登ると、深い茶色で塗装されたベンチ状のシートが5段あらわれました。座面には厚さ3センチくらいの茶色い座布団のようなものがあり(ウレタン的な、もっと座りやすいやつ)、そこに重ねてある黒の合皮の四角いクッションを背面に立てて、背もたれにするという設計。側面は危なくないように、角に大きめのアールがつけられていました。通路部分は焦げ茶のパンチカーペットで、座ってみても足元にちゃんと広さがあります。もっと無骨なシートを想像していましたが、想像の10倍、居住性が高い空間でした。
オケの音出しに混じって、小さく聞こえる鳥のさえずりのSE。樹木のセットは近くで見ても非常に精巧で、照明に照らされたその枝を眺めたりしながら、開演のときを待ちました。
1幕
いきなり反転した、オンステージシートの印象
開演するや否や、幾重にも重なる歌声に包まれて、のっけから泣きそうでした。
オンステージシートの役割は、コロスの延長なのでは。そういう見当をつけて実際に座ってみた結果、早々にその印象は反転することになります。
冒頭、ジェーンの両親が命を落とすシーン。客席からの視点で言うと、2人が墓石の手前に回ってひざまずき、センターに佇むジェーンに向かって「見ているから…」と祈るように歌う演出があります。ステージにいると、まさに、この2人の眼差しを受けることになるのですが、父母に扮する中井さん、仙名さんが墓石の向こうから舞台のこちら側を見上げた瞬間、その顔が、プレイハウスを埋めた観客のたくさんの顔と重なったのです。
ジェーンを取り囲むようにカンパニーが舞台上に広げた円弧は、そのまま客席まで滑らかに繋がっていました。ジェーンの行く末を「見ている」のは、まさに1人ひとりのお客さんだったのです*4。コロスの延長を担うのは実は観客のほうで、オンステージシートは、そのリフレクションだったのだと気付かされました。
場面転換という“群舞”
その後のストーリーは、上演されるものを鑑賞したというより、目の前で起こることを目撃し続けた、という感じで受容しました。中でも夢中になったのは、鮮やかな段取りの数々。目まぐるしく場面が転換していくなか、私の視点からは、上手側のオンステージシートの壁面に用意された衣装や小道具を手早く取り替える女性キャスト陣がよく見えたのですが、その手際の美しいこと。
ヘレンの死の前後、ヤングジェーンに寝巻きを着せて再び元のスモック風の制服に着替えさせるところとか、素晴らしかったです(脱がせた制服を綺麗に整えて、またすぐ着せられるように手に持ったまま歌う)。1幕中盤のビッグナンバー「♪自由こそ」では、萌音ジェーンにお姉様方がよってたかってボンネットやケープを着つけて瞬時に旅支度を整えるのがすごすぎる(その間、一瞬たりともたゆまず歌い続ける萌音ジェーン)。
このような、カンパニーが織りなす所作の連続をうっとり眺めていて気付いたことがあります。前回、本作について「これは全然踊らないミュージカル」と書いたのですが、実はここで行われていることって、ものすごく高度なダンススキルの援用なのではないかな、と。本当はめちゃくちゃ踊っているのではないか???
単なる人々の集合というよりはカンパニーという1つの有機体のように見えるのには、そういう理由があるのかな?と思ったのでした。
史上もっとも井上芳雄さんに近づいた件
1/30博多座3階バルコニー→3/16プレイハウス2階立見、と距離を縮め、3回目にしてオンステージシートへ。「だるまさんが転んだ」にしてはだいぶ癖が強いな。
暗闇の中、暴れ馬を駆って上手袖から飛び込んできた芳雄ロチェスター(ちょうど下手オンステージシートに向かって突っ込んでくるような向きなので大迫力だった)。
めちゃくちゃいる…!!!目の前にいる!!そして、デカい!!
(むせ返るような存在感とオーラで情報処理回路がダウンしたのでうまく書けない)
このジェーンとの邂逅のやり取りのラスト、舞台奥でジェーンを見送る一言「きのこの家へお帰り、妖精くん。」の爆イケの横顔を浴びました。
ロチェスター登場後はますます、演じているものを目にするというより、偶然その場に居合わせて、そっと成り行きを見守っているような感覚*5。近くで観られたうれしさももちろんありますが、ほぼ横から観ることにより、芳雄ロチェスターが「居る」感じに痺れました。
そして迎えた1幕ラスト。セイレーン大三角形の一辺の長さに圧倒されました。こんなに離れて歌っているんだ…!ライトを浴びて声を解き放つ萌音ジェーンの凛とした背中、上手奥から音圧で薙ぎ倒しにくる芳雄ロチェスター、そしてこの時点では謎に包まれた、樹里さん演じる“女”の引力。緊張感あふれる3人の歌声が、舞台を、空間を塗りつぶす。その渦中にいられたことは、本当に得難い体験でした。
2幕
ジプシー女のアドリブ(声だけで楽しむ)
休憩時間は、フクロウと虫の声が聞こえる座席に残り、ソーンフィールドの夜の帳の中でぼんやりと過ごしました。
ジプシー女のシーンは、ちょうど真後ろから見ることになりました。赤いショールで覆い隠してもなお存在感のある、大きな背中。
正体を明かしたとき、何か「ばちゃっ」という音が聞こえたのですが、その後、芳雄ロチェスターが「いい出来だったろう?こぼしてしまったが」というアドリブを入れたので、何かがこぼれたのだとわかりました(この場面は見えていない)。
そして結婚式のシーン。参列客気分を味わいましたが、その後の展開を知っているとなかなかに地獄です。牧師の前にひざまずき、今まさに誓おうとする2人を真後ろから見つめていると、そこへフラフラとメイスンが歩み寄ってゆくのです…。
ジェーンを失い、力なくうなだれる芳雄ロチェスター。青白く光るヴェールを見下ろす表情を、真横からたただた悲痛な思いで見つめました。
それは本当に荒野を吹き渡る声
クライマックスで、シンジュンと対峙するジェーンの耳に届いた、あの呼び声。あれは芳雄さんが舞台袖で歌っている、と頭ではわかっていたのですが、でも、やっぱり違いました。本当に風にのって荒野を渡ってきたかのように、人を強く惹きつける歌声。“それ”が舞台袖のどこから発生していたのか、芳雄さんが具体的にどのあたりに立っていたのか、本当にわからなかったのです。もちろん音響効果が効いているのもわかってはいるのだけど、私はもうジェーンばりに「どこにいるの!?」っていう気持ちになり、オンステージの観客もなんとなく、ほんの少しだけ「どこ…?」と周囲をうかがうような、ソワつくような雰囲気がありました。
「愛する勇気」を、きっと信じている人々
エンディングでも、また違った景色が見えました。
舞台の奥でヘレンの亡霊からジェーンに赤子が託される間、センターのベンチでは芳雄ロチェスターが結夢アデールの顔を覗き込み、頬をいたわるように撫でていました。ミセス春風フェアファックスは微笑みながら芳雄ロチェスターを見上げ、エプロンのポケットから取り出したハンカチで、その頬をつたう涙を拭ってあげていました。そして、舞台の外周に立ったり座ったりして、思い思いに家族を見守る使用人たち。その眼差しが、冒頭と同じように、観客たちの目線と重なります。
私は、“家族”が寄り添い、いたわりあうその後ろ姿を、ただただ涙しながら見つめ続けたのでした。
本作に通底するものは言わずもがな「信仰」で、これは日本のキャストが演じ、日本の観客が受容するには、ある程度のハードルがあるはずです。芳雄さん自身はパンフレットでもご自身の信仰について触れており、きっとそれは助けになったのだろうと想像するのですが、その他のキャストはきっと、例えば演出家の助言や、それぞれで役への理解を深めることで乗り越えてきたのでしょう。でも、そのハードルを超えたとしても、少なくとも演者1人ひとりが“愛”の存在を信じていなければ、あの奇跡のようなラストシーンは生まれないのではないか。これって、実は決して簡単なことではないのではないか。……比較的メイクも薄いキャストたちが、生身のまま心を通わせている。そんな姿をごく近くで目の当たりにしたことで、普段はそこまで考えないようなことが頭に浮かんだのかもしれません。*7
心づくしのカーテンコール
センターで拍手に応えたあと、私たちのところにやってきてくれるキャストのみなさん。オンステージシートを見上げてくださる輝かしい表情が、1人ひとり忘れられません。思い出してもちょっと泣ける。一生懸命拍手を送りました。少しでも気持ちを返せていたらいいなぁ。
上手側から挨拶を届けてくれる春風さんに熱い拍手を送って、気づいたときには芳雄さんが目の前にいました。バッ!と体を折るような深いお辞儀。火事の後遺症的に、右頬に傷のメイクを、左のこめかみにテーピングをしていることが、ここでやっとわかりました。
お互いの背中に手を添えて整列し、深く腰を折って拍手に応えるカンパニー。こんな背中を見られることは二度とないのです。あぁ、スタオベって、舞台からはこんなふうに見えるんだ。こんなふうに伝わっているんだ。自分も立ち上がって拍手しながら、このまぶしい景色をずっと覚えておきたいと思いました。
月の裏側〜オンステージから見えたものまとめ
以下、順番が前後するかもですが、見えたものをメモしておきます!※セリフなど一部うろ覚えです
- 屋比久ヘレンの「パンを持ってきたわ」の背中の佇まいと発声で既に泣きそうになる
- 結夢ヤングジェーンのぷんすこ床拭きの表情。私は魂の修行が足りていないので絶許モードのヤングジェーンに共感してしまうくらいなのです…はぁ〜
- ベッシィこっち見んなwwww(上手のステージ下からこっそり覗いているときの表情wwww)
- 「♪清らかな朝陽」でカーテンを開けるシーン、その“清らかな朝陽”を私も正面から浴びられました!
- 芳雄ロチェスターが長椅子に投げ出したおみ足を正面から眺めました。長すぎて余ってたわぁ…
- 「我に勉強を授けたまえ!施せ!」でシンクロする結夢アデールと芳雄ロチェスターの仏頂面ユニゾン ※セリフ直しました(3/30)
- 芳雄ロチェスターと仙名イングラム嬢(お2人とも美声!)がこっちを向いて歌ってくれるシャンソンにうっとり。♪アンシャンテーホンニャララ〜←壊滅的リスニング
- “女”つまりバーサが上手袖から現れるときの、樹里さんのバレエの足さばき*8
- 目の前で揺れ動く本物の火と、薄くたなびく本物の煙
- ジェーンが夜中に描いていた似顔絵がうまい
- 萌音ジェーンと芳雄ロチェスターの会話シーン、角度によってはめちゃくちゃジェーンの後頭部が見える。…ということは、わかるね??
- 萌音ジェーンに口づける、芳雄ロチェスターの広い背中(16日と違って、立っていました)
- 芳雄ロチェスターを抱き締める萌音ジェーンの、慈しむような指の添わせかた
- 難曲を弾きこなすピアノ/コンダクターの桑原まこさんのお姿(幕間などに)
- 番外編*9
オンステージシートの感想、まとめ
確かに、見えないところもたくさんある。終盤は流石にお尻が少し痛くなりました。それでもこの角度でしか見えない表情の数々があり、何より、美しい歌声の渦に飲み込まれるような体験には、何ものにも代えがたい喜びがありました。私個人としては、2回目ということもあって理解も深まり、満足度がとても高い観劇になりました。とても貴重な機会に感謝です。
不二家さんにミルキーいただきました。萌音ちゃんありがとう😊
次回は屋比久ジェーンに会いにいきたいと思います♪
*1:装着前に撮るのを忘れて写真がありません…!
*2:私、大人になってもこういう舞台の裏方への憧れがあるんだなぁと再認識した。
*3:私はミッチーのベイベーなのでみんなで同じ色の服を着て集まるのに慣れている(毎年ワンマンショーツアーでテーマカラーが設定されるから)(※強制力のあるドレスコードではない)
*4:文字通りといえばそうだけれど、機能的な意味合いで
*5:受け手にとっては芝居の真実性が増すような効果があるのかもしれません。
*6:それにしてもロチェスターはなんで重婚できると思ってたわけ!?と訝しみたくもなるのですが、これについては芳雄さんがパンフレットの座談会で「(前略)ジェーンのことを、本当の意味では尊敬できてなかったのかもしれないね」と語っており、ドキッとさせられたのでした。
*7:念のため書いておくと、誰かを愛するという感情を持っているかは人それぞれであって、誰もが人を愛するべきという風には思っていません
*8:演じ分けがミススキャチャード/ベッシィ/バーサなので脳が爆発しそうになる