完全に猫なのさ

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ミュージカル「LUPIN」感想〜創造のマントをひるがえして(2023年11月25日夜・帝国劇場)

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「どこが(いちばん)好きだった?」

その夜、アフターで訪れた有楽町のガード下でそう聞かれた私は、箸を置いて一瞬考え、こう答えました。

「みんな楽しそうだったところ!」

 

というわけで、すでに御園座公演が始まっておりますが、帝劇での感想を残しておきます。

 

※1回しか観られていないので間違いがあったらすみません。また、私個人の主観による感想です。

 

 

開幕まで

まずこの日(11/25夜・おけぴ観劇会)の前に、ネタバレを避けていなかった私が得ていた情報はコレでした。

リボンが飛ぶらしい。

何より初日の時点で、公式やメディアから流れてくる舞台写真の情報量が多すぎて脳みそがパンクしました。カット数が多いという意味ではもちろんありません。

着席してみると、舞台上にはマントを模したミニマルなセットがありました。その上部に据えられている蝶ネクタイ。も、もしかしてアレがアレする……??*1

 

わくわくしながら幕開けを迎え、登場したのは、真彩希帆さん扮するクラリス。最初のナンバー「願いが叶う日」の美しいソロにすっかり魂が洗われて、私はごく自然に「あ、今日の観劇は、この人の歌声についていこう」と決めていました。結果的にそれは大正解となりました(後述)。

 

各キャラクターとの出会い&印象

クラリス(真彩希帆):観客を導いてくれる「白いバラ」

主人公はもちろんアルセーヌ・ルパンその人なのですが、クラリスを頼りに観劇するのは正解でした!だって主人公を筆頭にいろんなキャラクターが観客を幻惑しまくるから指針となる人が必要だったのです。真彩希帆さんは安定した歌声でその役割を担ってくれました。摩訶不思議な作品世界を、白いバラを掲げながら先導してくれるかのようでした。全部のドレスがめちゃくちゃが可愛くて、特にジェーブル伯爵から贈られたドレスには女子の夢が詰まっている!*2

人物造形もよく考えられているように思います。女性参政権運動も登場するなか、自立心を強く持つキャラクターは令和の観客にとっても共感しやすい設定でした。一方で、「純潔」を連呼するキャラでありながら、ジェーブル伯爵邸でめざめて「ちょっと物足りない…かも」と小首をかしげたり、ルパンに唇を奪われて「怒らなくちゃいけないところだけど…素敵だったぁ…」ととろけてみせたり、こういった正直なところも、また令和っぽくて悪くないな!と思いました。愛嬌と可憐さのバランスが絶妙だったと思います*3

なお、前述のアフターで「なぜクラリスはボーマニャンに誘われるまま奇巌城について行ったのか?」という議論があったのですが「本作の登場人物に合理性を求めてはいけない」という結論で解散しました!

 

ボーマニャン(黒羽麻璃央):フィクショナルな役をリアルに演じる力

大好き。どこをとっても天下一品の悪役で、そこにルキーニの経験が流れ込んでいるのは明白でした。夜会でクラリスの手を取ろうとして目の前でヴァルメラ(=ルパン)にかっさらわれてしまったときの憤怒の表情とか最高です。黒羽麻璃央はやっぱり眼球、とりわけ白目の使い方がうまいのだ!!

黒鷲団のシーン。事前のネタバレでどうやら中二病っぽいぞ、ということは把握しており「俺はルシファー」というフレーズも目に入っていたのですが、まさかそのまんま「俺はルシファー」って歌うとか思わんやん???しかしながら彼ら黒鷲団*4を従えてのソロは文句なしにかっこよく「者ども!」というガラの悪い号令も板についていました。主人公に対して「ちゃんと立ちはだかれる」ことは悪役にとっては至上命題。そこに関してはまったく問題なく、若さと押し出しの強さが両立していて頼もしく思いました!

そして何より好きなのはクライマックスの奇巌城での大絶叫「卑怯者には卑怯者の矜持があるーーーッ!!」です。私、悪役には目がないのですが、今後、卑怯者の自覚をもつナイスな悪役といえば私の中ではばいきんまんorボーマニャンの二択になりました。あっけなく海に落下してジ・エンドでしたが、ばいきんまんが空にぶっ飛んでキラーンって消えるようなものですよね(もちろん憎めない悪役として例に挙げております)。

フィクショナルで馬鹿馬鹿しい役を地に足をつけて具現化できる、素晴らしい役者さんだなぁと改めて思いました。立っているだけで華があるし、場の空気をしっかり握れる。歌も上手いし声もデカイし、まりおくんにはまたミュージカルで再会したいなと思いました。

私的には必死に岸まで泳ぎ着いて助かったルートも信じたい。ガタガタ震えながら「覚えてろよーーーーッ!」って叫んでてほしいな。

 

カリオストロ伯爵夫人(柚希礼音):私のオペラグラスを盗んだのはあの人です

レオナールを伴ってジェーブル伯爵が夜会に現れた瞬間はちょっと忘れがたいです。うん、まず、小池先生、そこに階段を作ったんですね(真顔)*5。一歩階段を降り始めるやいなや、私の全オペラグラスが強奪されました。そりゃあ柚希礼音さんがどんなお方か存じてはいました、存じてはいましたけれど、これ(=黒燕尾で階段を降りてくる)に免疫のない私が無事なわけないじゃないですか!!階段を降りきってからのダンスも、オペラが眼窩にはまり込むくらいに食いついて観てしまいました。クラリスに対する「僕は女性を尊重しているんでね」というセリフも、あとから考えれば重層性があって印象的です。

ブランクを感じさせない“男役”ぶりに感嘆しつつも、女性の姿を現してからはその妖艶さにも目を見張りました。所作やステップに他の女性陣とは一線を画す貫禄があり、ルパンを圧倒する役回りとしてとても説得力がありました*6

ところで、カリオストロ伯爵夫人の二面性、神秘性はサブタイトルになるほど重要なテーマだったわけですが、本当の意味でのタイトル回収は最後の最後で行われました。カリオストロ伯爵夫人は、実は何者でもなかったのです…!レオナールに漕がせる小舟に乗って、上手から下手へたっぷり移動しながら愉快そうに観客に種明かしをしてくれるブリジット嬢。最後はジャケットをブンブン振り回して、下手の袖に小舟が吸い込まれても「オーッホッホッホッホッ!!」と高笑いが聴こえてきます。マイクが切られてないのが面白すぎるんよ。

しかしですね、何者でもなかったとしたら、あんなに華麗に男装して大立ち回りを演じて普通に強くて、やっぱりあんた何者なのよ?と思うのでした。

 

シャーロック・ホームズ小西遼生):私の腹筋をちぎったのはあの人です

本作は開幕からずっとじわじわ面白かったのですが、ホームズがハートを盗まれて以降、これは笑っちゃってもいいぞ!!と自分の中で蓋がとれて、よりほぐれた気持ちで楽しむことができました。いやホームズ笑笑。

クールなのにイケボなのに、そうであればあるほど面白くなってしまう。あんなにめちゃくちゃやっておきながら、五指をあわせて口元に添えるホームズの象徴的なポーズはちゃんとおさえてくる。挙句の果てには女装を見破られて「クオリティだ!クオリティに差をつけられた!!」。こんなの最高すぎてゲラゲラ笑い転げながらライヘンバッハの滝にダイブしちゃうでしょ。

この面白さは、小西さんの生来のカッコよさと生真面目な演技プランによって支えられていたことは言うまでもありません。憮然としてハート作るの面白すぎるのでやめてください!!笑

 

レオナール(章平):本作の癖(ヘキ)を支える忠実な下僕

ジェーブル伯爵に影のように付き従っていたレオナールが少しずつ存在感を増してきて、おや、けっこう重要なお役目なのでは…?と注目するようになりました。まず体格がいい、そして強い!!そしてルパンが伯爵夫人の手に落ちてからの殴打シーン。上裸です、ムキムキです、そしてサスペンダーです。このとき私は、レオナールもまた癖(ヘキ)だらけの本作で重要なピースを占めるという確信を得たのでした。説明不要ですけれど、ここには伯爵夫人の男装だったりアネットちゃんだったり、このシーンで縛られた古川ルパンも含まれます。

最後は主従萌え(これもまたヘキ)でハッピーエンド寸前までいったのもお楽しみポイント。これから2人は追われる身となるのでしょうが、ここは伯爵夫人のタフネスを活かしてアメリカで元気にオンボロ珍道中逃避行を続けていてほしいです。

 

ガニマール警部(勝矢)&イジドール(加藤清史郎):舞台を走り回る“ルパン盛り上げ隊”

ルパンを追う立場なのでとにかく走ってるイメージなのですが、「痛くもない腹を探られる」って言いながらお腹をつかんでみせる勝矢さん、おもしろすぎてずるいです笑。そして清史郎くんはとにかく俊敏で、しかも他のキャストと重ならない、なかなかいい声。小気味良い立ち回りもフレッシュで、見ていて気持ちがよかったです!

この2人のキャラクターの重要な印象については後述。

 

アルセーヌ・ルパン(古川雄大):“天衣無縫”の体現者

さて、ようやく主役にご登場いただきましょう。何より眼福だったのが、ルパンがたくさん踊ってくれるところです!エリザで独立運動のダンスをもっと観たいと思っていたので叶えられた気持ちです。センターで踊るのも、変装で周囲に紛れて踊るのもどっちも楽しめてお得でした。

魅力が最も詰まっているのはやっぱり正装でのテーマソング「Je m'appelle LUPIN」かなと思います。ヒーローが名乗りを上げるナンバーって痛快ですよね。名乗りっていうか本当にジュマペールルパンって言ってるので…。マントをひるがえしてセンターで歌って踊る姿の景気のよさ!スター性をいかんなく発揮する古川さんにただただ夢中になればいい時間で、レビュー的な側面が強いけど、そこがいい。この曲は音楽面でも、ギターリフにルネッサンス期の宮廷音楽みたいなパーカッション*7が重なる冒頭も面白いし、コーラスの「♪か・い・と・う!紳士ルパン!」とか中毒性ありすぎだし、サビではドラムが刻むベタなフレーズ「ドンパンドドパン」がたまらないし、「♪ゆるしーはしなーい」パーラパッパー!🎺って金管が追いかけるのも大好き(伝われ)*8。何より適度にクサいメロディが古川さんの甘いヴォーカルに合っていると感じました。

「Je m'appelle LUPIN」には「天衣無縫」という歌詞が出てきますが、それはルパンというよりも古川さんを表して書かれた言葉なのかもしれません。

 

本作独特の魅力について

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とにかく「なんか見たことないやつを見た」に尽きるので、どういうことだったのか一生懸命考えてみました。

 

モダナイズ〜クセになる「今っぽさ」

まずは、妙にクセになる「今っぽさ」。夜会服で着飾った男女が首のアイソレが強調されたクールな振り付けでビシバシ踊っていたり、ガニマール警部のラップ風の歌詞があったり(これはあくまでも「ラップ風」なのがミソ)、20世紀初頭を舞台にしていながらちょっと現代風にスライドさせた味付けが気になります*9。下半身が固定されたアネットちゃんの上半身のみの振り付けは、パラパラっぽくもあり、TikTokで流行るダンスのようでもありました。Chu! 可愛くてごめん。かと思いきや、完璧にクラシカルな振り付けもあって女性ダンサー3人の優美なアラベスクにうっとりさせられたりもして、帝劇に来た観客の「こういう衣装でこういうのを見たい」も急に叶えてくれたりする。音楽面では妙にTKサウンドっぽいなという場面もあったりして、これを交互に繰り返されると観客の脳はいい感じに溶けていきます。

 

ジャパナイズ〜イメージの蓄積がもたらすもの

そしてもっと重要なのは「日本っぽさ」。もちろん和風にアレンジされているという意味ではありません。私個人の印象ではありますが、ガニマール警部は銭形警部を、イジドールは江戸川コナンを彷彿させるところがありました。これはどういうことだったのか。

そもそも「ルパン三世」の銭形警部はガニマール警部を置き換えたもので、「名探偵コナン」には少年探偵、高校生探偵という概念を含め、西洋の名作ミステリの要素が散りばめられています。当然ながら、彼らは「ルパン」や「シャーロック・ホームズ」などを下敷きに日本で生まれた存在でした。

その元ネタともいえるガニマール警部やイジドールに本作で出会ったとき、日本で蓄積されたパスティーシュ/パロディのイメージを通さずに受け取ることは、私にはもはや難しかったのです。でもそれがとても楽しく新鮮でした。パリが舞台ではあるけれど、どことなく日本っぽい味がして食べやすいような…。これが私が考える「ジャパナイズ」の部分でした。

既存コンテンツのイメージを逆照射させることはもしかすると作り手も織り込み済みかもしれず、他の例を挙げるとヴァルメラはちびまる子ちゃんの花輪くんだったし、ルパンはある意味セーラームーンのタキシード仮面だったような気もします。私がそう思っただけですが!笑

 

まとめ:荒唐無稽かもしれないけれど

くだんのリボンに電飾が灯り、1幕のラストナンバー「飛翔〜本物のルパンは捕まらない」がはじまったときは、待ち構えていたとはいえ、やっぱり「♪俺は飛ぶ(物理)」に爆沸きしました。やっぱりこれは座長公演なんだなと。私はエンタメが振り切れる瞬間を愛していて、映画ではキングスマンの威風堂々🎆、バーフバリの船🦢、シン・ゴジラ無人在来線爆弾🚃などがそうなのですが、そのコレクションにぜひ加えたいと思いました。
クライマックスも「なんなんだ!?」っていう展開だったけれど、宝箱を開けたら金銀財宝ザックザク、とか、決闘中に転がって隠し扉を開けちゃう、みたいな冒険活劇にお約束の展開も楽しかったです*10。演出面も、岩場をチョロチョロ降りてくる宝箱の地味アニメとか愛嬌ありすぎてずるい。笑

「いまだかつて見たことがないルパンをお届けできたのではないでしょうか」。11/25の貸切カテコで古川さんにそう語りかけられ、これについては「本当にそう」というのが感想でした。でも、「まだ誰も見たことがないものを作り上げる」のは、やはり尊いことではないでしょうか。一番最初に書いたとおり、芸達者なキャストがみんな楽しそうにやっていたのもまた素敵でした。小池先生自身がパンフレットで「荒唐無稽」と表現していましたが、そこも含めて他に類を見ない、創作っていいなと思わせてくれる演目でした!(♪誰!にも!縛られずにっ!!)

以上、1回限りの観劇となりましたが、感想でした。ルパンの予告状が届いている各地(=地方公演)でも、引き続きハートがたくさん盗まれることお祈りしたいと思います。アデュー!

*11

 

*1:これについてはネタバレなしで体験できたら一番よかったのでしょうけど、私はネタバレ避けてなかったですし舞台写真にも上がっていたのでね…!

*2:これ、本当は同性であるカリオストロ伯爵夫人が見立てたと思うとキュンとしますよね。娘役さんにプレゼントするスターさんみたいで…

*3:ルパンの手でジェーブル伯爵の正体が暴露されるシーン、「あなたは女性!?」ってカツラを握りしめてオロオロするクラリスも面白すぎるよ

*4:名前をちゃんと把握するまでルシファーボーイズと勝手に呼んでました。なお、黒鷲団の推しメンは美麗さんです♡

*5:関係ないけどステージ奥に絶対に階段を作るうちのタースー(及川さん)のヘキ(宝塚大好き)も改めて感じるなどしました

*6:偽ルパンのアクションシーンも見応えがありましたが、殺陣の最中にルパンと背中合わせで短く言葉を交わす演出がマンガ的で最高でした

*7:似てると思った曲:Cancionero de Palacioの中のこの曲の0:55付近からRodrigo Martinez - song and lyrics by Anonymous, Accentus Ensemble, Thomas Wimmer | Spotify

*8:気持ちよく音がつきぬけてきて、やっぱりオケピがそこにあるっていいなと思いました。あとオケにサックスがあって大歓喜!2階席にいてもタンギングまでしっかり聴こえてきて嬉しかったなぁ

*9:今っぽさは自立心ゆたかなクラリスの造形にも関係がある

*10:子供の頃に見ていたモンタナ・ジョーンズ(もちろんインディ・ジョーンズのオマージュ)というアニメが好きでした

*11:なお本作には全く関係ありませんが、本記事はベートーヴェンの初日&2日目のチケをインフルでダメにした悔しさを療養期間中に思いっきりぶつけながら書きました(熱が下がってから)。書くタイミングを失っていたので書き上げられたことはよかったです。うう。