完全に猫なのさ

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その雨は一生の思い出になる/ミュージカル「シンギン・イン・ザ・レイン -雨に唄えば-」感想/2022年2月13日(東京千秋楽)

一生の思い出になる雨を浴びてきました。「シンギン・イン・ザ・レイン -雨に唄えば-」来日公演from英国!

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最初に気になったのは2020年にあるはずだった公演で、たぶん電車か駅の広告を見たのでした。渋谷駅だったような気がするな。その時は「この原作映画大好きなんだよなぁ、初心者が海外招聘公演を観るなんてそんな贅沢をしてもいいのだろうか…」と思っていました。

今年の上演が決定して気になりつつも時は過ぎ、仕事の繁忙期と年に一度の大金欠(※ツアーのチケットと遠征手配)に重なって、ずっともじもじし続けていたんですけど…思い切って取りました、かろうじて残っていた千秋楽のS席を…!

行ってよかった〜〜!!!

いや好きなんですよ、こんなん好きに決まってるんですよ。あぶなかった、千秋楽でよかったチケット増やしまくるところだった…

あえて全然情報を入れずに、でも原作映画を10年以上ぶりに見返して、当日を迎えました。

 

ヒカリエ11階から見下ろす人々の傘。うってつけのお天気ではありませんか…!

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※ミュージカル初心者の感想です。普段はミッチーさんのベイベーをやっております。

 

原作映画おさらいメモ

www.amazon.co.jp ※アマプラで観ました。初めて見たのは子供のときで、あとは大学生の頃?だと思います

  • どうしよう全然覚えてないと思ったけど、観たら全然覚えていた。ってか1920年代やん!大好き!!*1
  • 冒頭のチャイニーズシアターのプレミアで明かされる回想、こうやって話を盛りまくれるのはネットのない時代だからだなぁ。さらにはサイレントだし、みんな映画スターに夢を抱くことができた。
  • 一方でスターシステムの時代だから、ドンとリナという2大スターありきで、同じような話=1つ見れば十分、というキャシーの評も的を射ている。
  • ドンとキャシーの出会いのシーン、知り合ってから喧嘩までのテンポが早すぎるwwwそして素直に自信をなくすドンがかわいい。
  • キャシーもツンデレの極みでかわいい。
  • なぜ雨なのか←逆境に幸せを見出すことの美しさ
  • 土砂降りの中、喜びをほとばしらせて踊るジーン・ケリーの輝きたるや…。
  • というかこんなの子供が観て嫌いなわけないよね(子供のとき大好きになったので)、特に雨樋のところ、やりたくなるよね。

<メモ>

作中の舞台 1927年

映画の公開 1952年

→つまり四半世紀前の映画業界を振り返って作ったもの

現在    2022年

→つまり95年前の話を描いた70年前の映画()を今観ているということ

 

本編の感想

より洗練されたストーリーと演出

いちばん印象的だったのが、ミュージカル化するにあたって、筋書きがわかりやすく整理されていたことです。

ドンとキャシーの出会いは車ではなく街頭のベンチになり、ここでナンバーが追加されていて(♪You Stepped Out of a Dream/君は夢の中から出てきた)、ドンがキャシーに惹かれていることがはっきり描かれました。めちゃくちゃ喧嘩したけど、原作のように腹を立てたというよりは、自分が心のどこかで気にしていた「俳優としての弱点」を指摘した存在として、キャシーという女性はドンの胸を射抜いたんだなぁと。

キャシーが抜擢されるところも、キャシーの歌の実力がしっかりと認められたと伝わる演出になっていました。

ドンの親友であるコズモも、キャラクターの輪郭がよりくっきりしたように思います。終盤の「♪ブロードウェイ・バレエ」のシーンでは、古めかしいチャンバラものだった「闘う騎士」を現代化するミュージカルシーンの構想が語られますが、原作ではドンの発案だったのに対し、ミュージカルではコズモの発案として社長にプレゼンされました。もともと、リナの悪声を吹き替えでカバーしようというのもコズモのアイデアなので、この演出でコズモのクリエイティビティがいっそう際立ってきます。

原作も別にややこしい話ではないんだけど、ミュージカル版では、ストーリーがより洗練され、キャラクターにさらなる輝きが与えられていたように思います。それにより、原作のもつ普遍的な魅力が浮き彫りになる効果もあったのではないでしょうか。

 

身体能力とギミックの化学反応

いやもう…カンパニーの身体能力が高すぎて意味がわからなかったです…。

さまざまな小道具大道具をとりまぜて目まぐるしくフォーメーションが変わってゆくダンス。なかでも舌を巻いたのはコズモのナンバー「♪Make'em Laugh/笑わせろ」でした。ドンに「ショー・マスト・ゴー・オン」を説き、何がなんでも客席を笑わせろと体を張ってみせるこのナンバー、舞台でどうするのかめちゃくちゃ楽しみにしていたのですが、コズモ役のロス・マクラーレンがアンサンブルを巻き込んで七面六臂の大暴れ。額縁で写真を撮るたびにキャラを変えるなど舞台版だけの演出も目まぐるしく展開し、板に頭ぶつけてひっくり返るのとか、最後に壁を蹴ってバク宙したり壁を蹴破ったりはそのまま生かされていて、もう圧巻の一言でした。ぶっ倒れたコズモを包み込んだ客席の拍手の圧も忘れられません。

私はゴリゴリにエンタメを信仰しているので、人を笑わせよう、楽しませようというメッセージにめちゃくちゃ弱いのです…大好きだよコズモ…!!

1幕終盤、名案により映画が救われる喜びを歌った「♪グッド・モーニング」は、映画ではドンの自邸だった設定が公園のような屋外に置き換えられていましたが(しかも全員へべれけ)、大好きだった3人でソファの背を踏んでぐい〜んと倒すところ、ソファの代わりにベンチで再現されていて最高でした。っていうかそれ、どうやってやるの????

他にも、椅子の上でそれどうやって踊るの??とか、そのハンガーラックの間をどうやって通り抜けるの??とかもう枚挙に暇がないのですが、数々のギミックを織り交ぜて精緻に踊り続けるカンパニーのパフォーマンス(しかも歌ってる!)には、脱帽するしかありません…!

 

14トンの雨と、アダム・クーパーという超人

そしてついにやってきた、1幕ラストのナンバー「♪雨に唄えば。この時点で、「雨が振らなくてもこれ全然面白いんだけど???」と思っていましたが、不穏な雷鳴のあと、降ってきました、雨が…!

全身で雨を受け止め、水を蹴散らしてステップを踏み、高らかに歌うアダム・クーパーもう、あきらかに人間を超えていました…。
70年前にジーン・ケリーが演じた役をなぞるのではなく、「ドン・ロックウッド」という人間を完璧に肉体化して、びしょ濡れの舞台の上で燦然たる輝きを放ってそこにいました。なんという奇跡を観たんだろう、私は。

5列目までのお客さんは黄色いポンチョをかぶってスタンバイOKだったわけなのですが、真っ直ぐ降り注ぐ雨がどうやって客席にかかるんだろう?と思ったら、アダムが華麗に水を蹴り上げて客席にばっしゃんばっしゃんスプラッシュさせるんですね〜〜!!大サービスやん!!2階席からはその水しぶきの美しい軌跡まで堪能することができました。

このナンバーをもって1幕が終わるのですが、もう、万雷の拍手とはこのこと。感激に満ちた大きな拍手が送られました。

 

ていうか、

アダム・クーパー…50歳ってほんとうですか…(卒倒)。

 

なぜこんなにも惹かれるのか〜創意工夫の尊さ

チケットを取るにあたって、なぜ自分が映画「雨に唄えば」が好きなのかを考えてみたのですが、それは、「♪Make'em Laugh/笑わせろ」に代表されるエンタメ精神に加えて、一貫して「創意工夫の素晴らしさ」が描かれているからなのではと思います。サイレントからトーキーに移り変わる転換期に、勇気をもってイノベーションに踏み出した人々。演者にも技術にも問題がありまくりで大コケ待ったなしの「闘う騎士」を、なんとかいい作品にして世に出すぞ!という前向きなエネルギーが、このストーリーの推進力なんですよね。

そうしてこのミュージカル版を考えてみると、ここにも、「あの名作映画をどうやってミュージカル化するか?」の創意工夫がたくさん詰まっていると思うのです。場所の設定をうまく変えたり、ナンバーを足したり、技術力をもって実際に14トンの雨を降らせたり。その知恵と工夫の結晶を、すばらしいカンパニーの身体芸術によって、私たちは目の当たりにしたのだと思います。

忘れられない演出として、ラストシーンを挙げたいです。吹き替えの主はキャシーであると、ドンの口から観客に紹介されるシーン。逃げ出そうとしてドンに呼び止められたキャシーは舞台上手の端にとどまりますが、そこへ「プレミアを観に来た観客」として私たちが全力の拍手を浴びせます。その客席を見渡す、キャシー役のシャルロット・グーチの胸いっぱいの表情に、涙が出そうになりました。このメタ的な演出*2は舞台ならではですが、70年前の名作映画の世界に、こんな形で入り込むことができるなんて夢にも思いませんでした。

 

幸せの雨が降り注ぐエンディング

めちゃくちゃびっくりしたことがあります…!カーテンコールで再び舞台に雨が降り出すと、これまで日本語字幕を映していた電光掲示板に撮影可のメッセージが流れるではありませんか!(本当に情報を入れずに行きました)

撮影させていただきました…本当に知らなかったからびっくり…!

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でもねちょっとだけ後悔しています。まじで1ミリも撮らないですべてを目に焼き付けたかったなぁという思いもあるのです、ちょっぴりね…。でもカメラロールに思い出が残って嬉しいです!

 

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総立ちの観客、繰り返される主演3人のカテコ、そして客電が明るくなりアナウンスが流れても鳴り止まない拍手。最後、いよいよ規制退場の列が呼ばれて、これはもう終わりか、、と思ったところで袖からアダムが現れて、客席に別れを告げてくれました(アナウンスも中断)。言葉はなくても、めちゃくちゃラブが届いたよ〜!!全力で手を振ってお見送りしました。

 

その他メモ

  • 劇中劇?というか劇中映画?は実際にスクリーンに流れて面白い。というか「宮廷の反逆者」の尺が原作より長いwww
  • 生まれてはじめて生タップダンスを観た〜!!なんて小気味のよい音なんでしょう。「♪モーゼス・サポーゼス」では巻き込まれた先生もキレッキレのタップダンスを披露していて最高〜〜
  • リナのナンバーが追加されたのが印象的。映画ではわかりやすく悪役でしたが、心情の吐露としてソロナンバーがあることでキャラクターに厚みが加わったように思います。作中で描かれるリナの欠点は「悪声」ですが実際の問題は声質より「知性が感じられない話し方」でした。ミュージカル版では「私のことバカだと思ってる?」「私はバカじゃない」的なセリフが大量に出てきたので、「うすうす自分でもバカだってわかってる」ことが示唆されていて興味深かったです。「can't」がうまくしゃべれないところの日本語訳が映画(アマプラ)では「我慢できねえ」だったのに対し「我慢できにゃい」だったのも可愛かった。
  • それにしてもリナの声の再現度が100%で声帯が心配だしリナが顔で受けるパイ投げはガチでした。体を張りまくったジェニー・ゲイナーに大拍手です…!
  • ドンとキャシーは隙あらばキスしてました。映画よりめちゃくちゃキスしてたよ…///(そしてそれをオペラグラスでガン見する私)
  • そういえばオーブのオケピってどこにあるんだろう?→あった〜!!!(2幕冒頭で舞台の奥が開いてオケが挨拶)
  • ラスト、リナの口パクでキャシーが歌う曲は、「♪雨に唄えば」から「♪Would You」に変更になっていました。なるほど〜
  • 客席の手拍子がちゃんと裏拍で最の高〜〜!

 

まとめとおまけ(グッズがおしゃれすぎた話)

超絶金欠だったのに、グッズがおしゃれすぎて頭のネジが吹き飛んで、スウェットと会場限定Tシャツを買ってしまいました。パンフ*3も入れたら諭吉寸前になってしまったので自重したのだけど、ほんとうは全部ほしいくらい超おしゃれだったです…。ここでもエグいほどの洗練を感じてしまいました…。

「スウェットやTシャツはレッスン着にできるからいいのッ!」という超言い訳カードを切ったものの、レッスン着としてはスウェットは裏起毛だったので詰みました。あったかくて最高やんけ(泣)。でもめちゃ可愛いからオッケーです!

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タイトルロゴの下にある筆記体、何かと思ったら劇中の重要なセリフ「Dignity, always dignity(威厳を、常に威厳を)」だから堪んないよね!!!

 

 

今日書かないと全部忘れるので、粗々ですが書き終えました。

とにかく、私には贅沢じゃないかと思ったけど、やっぱり本当に行ってよかったです!この世にはこんなにも素晴らしいエンタメがあり、それを必死の思いで届けてくれる人々がいることに、改めて胸を打たれました。

こんなたいへんなときに、めちゃくちゃ制限もあるなか、よくぞ東京の舞台に立ってくださいました…。1月公演の中止は本当に苦しかったと思うし、滞在中も多くの制約があることと思いますが、カンパニーに心からの敬意と感謝を送りたいと思います。

大阪の地にも、素晴らしい雨が降りますように。

 

 

*1:私はダウントン・アビー狂なので…

*2:これを初めて体験したのは、10年以上前の野村萬斎のリチャード3世だったなぁ。と思い出しました。当時仕事の都合で東京にしばらくいて、舞台もちょこっと観ていたんです

*3:アダムのインタビューが1月公演の中止を踏まえた内容になっていて、どういう進行なんだ!?差し替えたのかな…?※職業病