その日は、どう考えても17時で会社を出ていい日ではありませんでした。1週間後に印刷所に渡さないといけないのに押しまくっている仕事が佳境でした。
でも、この貸切公演を守るために前週の本初日は泣く泣く手放して、何がなんでも、という気持ちで当日を迎えました。仕事なのに赤いワンピースを着て、バッグにはオペラグラスとチケット、そして手にして半年もたたない会員証を忍ばせて。
この1か月、やばすぎる案件を回しながら某アーティストのツアーで5都市6公演に参加して全てにレポを書いていたので(神戸・大阪×2・名古屋・福岡、一昨日が神奈川)、今現在、MR!はたった一度しか観れていません。本当は、お誕生日の貸切公演をmy初日にするなんて避けたかった…!でも初見の感想は今しか書けないので、メモ程度でも箇条書きでも、残しておきたいと思います。つたないですがご承知おきくださいませ…。
※ミュージカル初心者の感想です。普段はミッチーさんのベイベーをやっております(←絶賛ツアー中)
※私のファン歴は2023年1月の博多座〜です。
※7/18観劇後、間違ってるところを直しました!!
入場〜開演まで
冷静に考えて、マチソワで貸切公演ができるの、すごすぎます。この日、帝劇に集結したのは全員、芳雄の女(※男性もいました!)。
帝劇のロビーの柱にはキャストの大きな写真、天井には赤い垂れ幕。なんとなく雰囲気がムーディーなのは、赤い電球のレールライトが追加されていたり、ダウンライトに赤いフィルムが巻かれていたりするから。そこに夕方の光を通す帝劇のステンドグラスが映えて、なんともいえないムードを感じました。売店ですら世界観にぴったり合わせて「BOUTIQUE」の看板を掲げています。誕生日メッセージを寄せる付箋のボードも出ていて、みんな幸せそう、楽しそう、私もこの場にいられて嬉しい。
いよいよ客席に足を踏み入れると、すでに何回も写真で見ていたのに、のけぞって、なんなら涙ぐんでしまいました。見渡す限り真っ赤な視界。悠然と回る風車の羽根、繊細なきらめきを宿すシャンデリア。ステージの低いところに下がっている電飾のタイトルロゴ「MOULIN ROUGE」の奥に、ハートが幾重にも重なって、その繊細なレースの意匠を見ているだけでちょっと気が遠くなりそうでした。
振り返ると2階のへりにモニターが設置してあって、おそらく開演までのカウントダウンが表示されていたのですが、そのフォントと縁取りまでもが、完璧に世界観を踏襲していて驚きました。
10分前になると密やかにプレショーが始まります(ここからは撮影禁止です)。舞台上にふっと現れて、ただならぬ雰囲気で、とにかくゆっくりと所作を見せてゆく、ムーラン・ルージュの踊り子と客(たぶん)。低くゆったりしたBGMにあわせて、舞台から退廃が香ってくるようです。でも時間軸はまだ客席とは一致していなくて、だからこそ、ゆっくりと展開されることが重要なのだと思いました。シンクロして歩く2人の男性キャストが特に前衛的で目を引きました。
芳雄さん演じる青年〜“なんって若いんだ!”
- そのプレショーの空気感から一人抜け出して、上手から現れて下手に歩みを進める青年、クリスチャン。すらりとした体躯に細いストールを巻いて、チェスターコートをまとって、複雑なニュアンスの表情をしています。そこから両手でグッ…と看板を持ち上げるマイム。佇まいとその所作だけで、客席のムードを一気に塗り替えてしまう。まだ歌ってないのに。
- この日44歳になった芳雄さんが、20代の青年を演じるってどういう感じなのだろう…そんなクエスチョンは杞憂でした。輝きを帯びた青年の表情、高くハリのある歌声、生命力を感じさせる身振り、歩き方……。新天地・パリで感性のアンテナを張り巡らせて、身の回りに起こることにドキドキして、チェスターコートの肩が常にちょっとだけぴょこっと上がっている、若くチャーミングなクリスチャンがそこにいました。
- 最初のナンバーで、拍手喝采によるショーストップ!!私、はじめて経験したかもしれません。「なんって凄いんだ!!」…両耳に手を添えてちょっと煽るような動きがあって、その瞬間にほんのちょっとだけ、井上芳雄その人を感じました。
- そして運命の瞬間、サティーンとの出会い。上手側のボックス席にいたクリスチャンは、そのダイヤモンドの輝きを目の当たりして、口を手で覆って、友に目配せして、足を小さくバタバタさせて、それは、それは、完全に我々オタクがやっているやつじゃないでしょうか。
- というか芳雄さんがかっこよく踊ったので私は泣いてしまいました。ダンスはダメです、私の急所なんです。随一の歌い手で、いつだってプリンシパルで、今後も踊る姿を拝めることはないのだろうなぁと勝手に思っていました。あーあ…私はもうだめです。
- 可愛く寝そべって上目遣いでサティーンを見上げて、ねぇ、長椅子の使い方、ロチェスターをやっていた人と同じですか??
- デュークにプレゼンするシーン、ラインダンスで蹴り出される足の長さにもはや笑うしかなかった。
- 44歳の芳雄さんが演じるクリスチャンは、愛と好奇心、インスピレーションに瞳を輝かせ、ナイーブに心を震わせ続ける青年そのものでした。
- 圧巻の歌唱や2幕の闇落ちについては次の機会に書きます!(舞台写真の角度でお察しかもしれませんが、2幕、ほとんど姿が見切れていたシーンがあるのです…*1)
「イマーシブ」はどのように実現されたか
- 「没入」については紹介記事(後述)などを読んで予習してあったのですが、足を運んでみると、そのパワーは予想以上でした。没入させるっていうか漬け込むっていうか沈み込ませるっていうか。
- 天井を見上げると、真紅の幕やシャンデリアが前方席のほうまで覆いかぶさっており、舞台が客席に浸潤しています。オケピ席(XA〜XC)はBWではカンカンシートになっているあたりなのかなぁ?とにかく、「あなたもムーラン・ルージュのお客ですよ!」と強く訴えかける舞台装置です。
- でも!「イマーシブ」は装置だけでは実現しません。引っ張り込む、巻き込む動的な力が必要。それをフルスロットルで指揮していたのが橋本ジドラーでした…!いぶし銀の輝きを放ちながらパワフルで剛毅。舞台装置が「あなたもムーラン・ルージュのお客ですよ!」と伝えるなら、橋本ジドラーは「あなた“が”ムーラン・ルージュのお客ですよ!」と、私たちをあっという間に当事者にしてしまいました。*2
- ストーリーはとにかくシンプル。だからこそ、この完璧な舞台空間で、オーディションで役を勝ち得たキャストたちの魂のパフォーマンスに触れる、唯一無二の没入体験が楽しめるのだと思いました。
- シンプルといえば、多くのミュージカルで効果的に使われてきたリプライズが、たぶん1回しかない気がしました。舞台上でクリスチャンに抱かれてサティーンが絶命する、あのシーンです。「YOUR SONG」のユーミンによる訳詞「なんて素晴らしい、君のいる世界」は一発で覚えてしまいましたが、あの歌詞が涙声の歌唱で繰り返された瞬間、「まさに今、“君のいる世界”ではなくなってしまった」という悲劇性に激しく胸を打たれました。ヒット曲満載のマッシュアップナンバーを畳み掛けたあとに、決め打ちのリプライズ、というのが痺れます。
キネ旬Webの記事。開幕前に読んで期待感が高まりました↓
貸切公演の集中力
- 言わずもがな、私にとって貸切公演は初めてです*3。昨年はコロナで中止になってしまったと知りました。ようやく実現したこの日、みんながみんな、井上芳雄を観にきている。
- でも、劇場の空気からは、一人の俳優に限らない、舞台全体へのリスペクトを感じて、心地よく集中することができました。
- 望海サティーンが「FIREWORK」をかすかに歌い始めるときの静けさは、低く小さい空調の音が聞き取れるほどでした。
- 前述の「YOUR SONG」のリプライズでは、汗と涙でべしょべしょに顔を濡らした芳雄クリスチャンを見つめながら、みんなで嗚咽すら我慢するような時間がありました。
- 貸切公演ならではの集中力、できればまた体験してみたいものだなぁと思いました(運がよければ、と承知していますけれど、、)
- 貸切じゃない今日も空調、聞こえました!MR!のお客さん、最高!
プリンシパルキャストの印象(7/6夜、敬称略、パンフ順)
キャストボードも超スペシャル!
望海風斗(サティーン)
- だいもんさん!輝くだいもんさん!!
- お初にお目にかかりましたが、グリブラの再放送で歌唱を拝見し、なんですかこの歌のうまさは!?と思っていました。
- クリスチャンが、そして観客がサティーンと出会う「THE SPARKLING DIAMOND」。サティーンという踊り子、そして望海風斗という俳優は、センターで輝く運命を背負って生まれたのだと思わずにはいられませんでした。
- 芳雄クリスチャンを魅了する大人の余裕と、ギリギリのところで張り詰めている精神の緊張感、どちらもあわせもつ複雑な造形でした。
- 真っ白な首元に血管が浮かぶくらいの、命の叫びのような歌が心に残っています。
橋本さとし(ジドラー)
- 前述の通り、観客を否応なく当事者にしてしまうパワーに圧倒されました。
- 何度も繰り返される劇中劇のシーン、“下手”な芝居や小道具への主張で笑いを誘っておきながら、倒れそうなサティーンを支えながらの“本番”、かっこよかったから、ずるいです…。その前の「サティーン、口紅、もう少し…」も切なかった。
上野哲也(トゥールーズ=ロートレック)
- サティーンとの友情。終盤のクリスチャンは壊れかけていたなかで、サティーンと落ち着いて言葉を交わすトゥールーズの存在は私たちの支えにもなってくれました。
- ちょっとうろ覚えだけど「僕は君を不滅にする」というようなセリフがあり*4、芸術がもつ普遍性を伝えるもので、本作におけるとても大切なセリフをトゥールーズが担ったのだと思いました。
伊礼彼方(デューク[モンロス公爵])
- この方が伊礼彼方さん…はぁ…。伊礼さんは、やばい…。
- 存在感と、威圧感。ボヘミアンズに立ちはだかる役回りとして完璧すぎる姿形でした。
- 登場シーンで完全な暗転がありました。まるで停電が起きたかのような強烈なインパクトがあったのですが(※ジドラーがブレーカーを落としていた)、これはデュークがクラブの命運を握る存在であることを暗示しているのだと思います。
- 「今日誕生日を迎えたおめでたい坊やみたいだ」のアドリブ(シリアスなシーンに没入していたので、意味に気づくまでに時間がかかりました。笑)。
- カーテンコールで快活に踊る姿がかっこよくて、伊礼さんは、やばいな…と思いました(語彙放棄)。
中井智彦(サンティアゴ)
- 中井さん!!!うわぁぁぁぁぁ!!!
- なんという雄々しさ!情熱ムンムン!!いい匂いの香水をつけていそう!
- っていうかインドで宣教師をしてるんじゃなかったの〜〜〜!!!シンジュンと中の人が同じってどういうこと〜〜〜!!!(※当方、この春ジェーン・エアにハマっておりました人間です)
- でも情熱を歌い上げるのがピタリとハマるという点ではシンジュンと相通じる部分もあるのだなぁ…(気づき)。
加賀楓(ニニ)
- サンティアゴとの組み合わせでとても強い輝きを放っていたニニ!!
- 決定的に華があるのに(言ってしまえば可愛い)、所作が俊敏で、緊張感を漂わせていて、途中から本当に目が離せなくなりました。うかつに恋したら危ないぞ、と脳が警告してくる感じ。
- 思わず、YouTubeでいくつかパフォーマンスも探して観てしまいました。え??なに?え??リズムを身体に1回入れて音といっしょに出してる??(なにそれ)ずっと観てられるんですがこのダンス…。キレじゃなくてグルーヴ?腹の底に凄腕のドラマーとベーシストが住んでる?
- というところにもう1回注目して観ます!!
番外編:桑原まこ(キーボード/コンダクター)
- ジェーン・エアで大好きになったので、カテコで袖から挨拶に出られたときは思わず嬉しくて手を振ってしまいました(ちょうど上手にいたのでよく見えた)
- あの繊細な小編成オケを弾き振りしていた方が大音量&重低音ズンズン!のこの舞台も担当されているのですね〜〜!かっこいい!!
*
以上、粗々ですが初見の感想でした。
なお、やばかった仕事も、その後なんとか仕舞いをつけることができました…(あまりにもキツかったので、日比谷は遠くないのにしばらく平日ソワレに手が出せない)。
私、回数を全然もっていなくて、このエポックメイキングな演目を楽しみつくせるのかちょっと不安なのですが、貴重な機会にしっかり観ておこうと思います。
というわけで7/18(火)ソワレ、行ってきます!!